追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
それは動物の死体でも、糞でもなかった。そんなものに例えてしまいごめんなさいと、心の中で謝った。
だって……尻もちをついたままの私の前には、薄汚れて破れたシャツを着て、所々土で汚れた男性が横たわっていたから。
もしかして、死んでいる?この、哀れな男性に神のご加護がありますよう。
聖職者の真似事をしてお祈りをしようと思った私だが……死体はぴくりと動いた。もしかして……噂に聞くゾンビとかいうものだろうか。それとも、私が踏ん付けたりして、死体の怒りを買ったのだろうか……
どっちにしても、怖いから逃げるが勝ちだ!
咄嗟に逃げ出そうとする私の足を、死体がぐっと掴む。意外にも強いその力に、私はびったーんと再び地面に打ち付けられたのだ。
ここまでくると、私の人生イージーモードが、人生ハードモードに切り替わる。せっかく処刑を免れて、なんと生きていけそうだったのに、こんなところでゾンビの餌食になるのだろうか。
あまりの恐怖でがくがく震える私は、何とかゾンビから逃げようと頑張る。だけどゾンビは離してくれないし、このまま食べられてしまうのだろうか……
「頼む……助けてくれ……」
ゾンビの掠れた声が聞こえた。その声は、戦で倒れた兵士の手当てをした時のことを思い出させる。必死で生きたいと願う、辛い辛いあの光景を。
「……え!?」
思わず振り返ってしまった。すると、ゾンビが顔を上げて私を見ていた。いや……ゾンビではなく、酷く憔悴しきった顔の男性だった。
その顔はやはり土で汚れ、手からは血を流している。弱りに弱った姿で、あの時の兵士と同じような絶望に満ちた瞳に私が映った。
その瞬間、
「助けるから!」
恐怖が吹っ飛んでしまった。私が薬師である以上、どんな患者も治さないといけない。もう、王宮薬師ではないのだが。