追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「アンちゃーん!今日から紅白ケーキ売り出すから、よろしくね!」
ケーキ屋の奥さんも、差し入れを持って時々訪れてくれる。今日はもちろん、紅白ケーキだ。ピンクと白の可愛いケーキの上に、ウエディングドレスを着た私と隊服姿のジョーのクッキーが乗っている。
「嬉しいのですが、結婚はしません」
苦笑いして告げると、またジョーの話が始まるのだ。
強くて怖い騎士団長とされていたジョーは、今や薬師アンにうつつを抜かすジョーとして有名になってしまった。というのも、ジョーが頻繁に治療院に現れるからだ。初めて会った時は紳士的な男性だったのに、今やジョーのアピールはすごいものになっていた。
「アンちゃん。もうそろそろジョセフ様を認めてあげたら?」
ケーキ屋の奥さんは、困ったように言う。
「この前なんて、アンちゃんにあげるためと、花屋の花を全部買っていかれたらしいわよ?」
そうだった。そしてジョーは、家政婦のごとくその花をせっせと治療院や私の家に飾ったのだ。あまりに花が多くて花粉アレルギーになりかけてしまった。だが、この事実を告げるとジョーが悲しむだろうと、黙っておくことにした。
「ソフィア様も大変でしょう?
ジョセフ様、よかれと思って色々しでかしていかれるから」
「そうですね。毎朝薬草園で水やりをしてくださるし、昨日は階段をピカピカに磨いてくださいました。
私としても、騎士団長にそこまでしていただくのは心苦しいです」
私は額に手を当てて、その話を黙って聞いていた。ジョーのその気持ちは分かるが、はっきり好きだと言われた訳でもない。もちろん身分の差という問題もあるし、何よりイケメンで強いジョーのことだ、女性には不自由しないだろう。