追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
私は男の隣に座り直し、素早く全身を観察する。
目立った外傷は手の傷だけだが、その傷が熱を持って腫れている。おまけに、すごい高熱だ。
この場で治療したいが場所が悪い。足元がぬかるんでいるし、清潔ではない。獣にも見つかりやすそうだ。とりあえず、さっきの洞窟まで戻らなきゃ。
「立てますか?」
男性に声をかけるが、彼は顔を歪めてうーっと唸るだけだ。駄目だ、歩けるはずがない。
「すぐそこに、洞窟があります。そこまで、私に捕まって歩いて!」
私は彼に背を向けて、その手をぎゅっと引っ張って背負うような体勢を取る。
「頑張って!……頑張って私にしがみついて!」
彼は懸命に私にしがみついてくる。だから私はその腕をしっかり掴み立ち上がり、彼の上半身を持ち上げて少しずつ前に進む。
相手は立派な大人の男性だ。予想以上に重く、か弱い私の身体に負担がかかる。このままでは、腰がやられてしまいそうだ。だけど、負けない!!
はあはあと息をして、少しずつ進む。男性は私にしがみついたまま、ずるずると足を引き摺られている。このままだと、足に新たな擦り傷が出来るかもしれない。だけど、まずは治療出来る場所まで運ぶのが最優先だ。
耳元で、男性の荒い息遣いが聞こえる。私に回された体も、びっくりするほど熱を持っている。
この人を、薬師として見捨てるわけにはいかない!
どのくらいかかっただろうか。距離としてはほんの十メートルなのに、それが一キロにも二キロにも思えた。なんとか男性を洞窟まで運んだ私は、洞窟に彼を下ろすと崩れ落ちた。
身体中が悲鳴を上げ、ここでひと休みしたい衝動に駆られる。だけど、目の前にいる男性はなおも苦しそうに息をしていて、死んでしまうのは時間の問題かもしれない。
私はちょうど煮えたった活力スープを器に取って飲んだ。私の特製スープはすっと胃から吸収され、少しずつ元気が戻ってくる。
私はまだまだいける。だから……
「あなたも、死なないで!」