追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる




 掃除道具箱ががちゃりと開かれる。眩しい光が一斉に差し込み、その先には眩しい笑顔で手を伸ばすジョー。その腕の中に飛び込めたら、どれだけ嬉しいかと思う。
 私はジョーが手を伸ばしているのに気付かないふりをして、彼に聞く。

「どうして、私を庇ってくれるの? 
 ……もしかしたら、私は悪人かもしれないのに」

 ジョーは手を伸ばしたまま、静かに告げた。

「アンを渡したくないから」

「……え?」

「アンは俺を助けてくれた。この街の人々も助けてくれた。
 悪人であるはずがない」

 ジョーの言葉に、目の先まで涙が出かかった。だけど、必死で涙をこらえる。

 ジョーに嫌われるのが怖くて、過去の話が出来なかった。だけど、ジョーにはこれ以上黙っていてはいけないと思う。こんなにも迷惑をかけているのに、無条件で私を守ってくれているのだから。それでジョーが離れてしまうなら……悔しいけど、それまでの運命なのだろう。

「あのね、ジョー……私の話、聞いてくれる?」

 その事実を告げようとすると、ドキドキする。もちろん、好きとかそういったドキドキではない。
 ジョーに嫌われないかとか、この地を追放されるかとか、そういった不吉なドキドキだ。

 ジョーは静かに告げる。

「話して欲しい。でも、それがアンの負担になるのなら、話さなくていい」

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