追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
 厳しい顔のジョセフに、まあまあとセドリックは言う。

「まさかアンが王宮薬師だったなんてねー。それに、アンが殺害なんてするとは信じられないけどねー。
 でも、アンのことにジョーが首を突っ込むことはないんじゃない?」

「首を突っ込むに決まってるだろ」

 ジョセフは自分の前の机をガンと叩き、宿舎の中には鈍い大きな音が響いた。それで、騎士たちも皆驚いてしまう。
 わーお!とセドリックは大袈裟に驚いたふりをした。

「アンを苦しめる奴は、誰だって俺は許さない。
 この地にアンをとどめておくのも、この地の者全てにおいて悪いことはない」

「確かに、ジョーを死の淵から呼び戻し、街の疫病を止めることは、アンにしか出来なかっただろうけどねー。

 それにね、ジョー……」

 セドリックは、急に真剣な面持ちになって、彼に告げた。

「アンが王宮薬師だったのなら、アンは平民の子供ではないと思う。
 王宮薬師には、それなりに地位がある人しかなれないと思うよ?
 アンには、ジョーが知らない秘密がまだあるはずだよ」

「……そうだ。俺もそこが引っかかっている。
 だから俺は、アンの出生について調べるよう指示した。それと、アンには極力気付かれないように、護衛を付けることにした」

「そうだね、変な奴がうろついているみたいだし」


 ジョセフの想像通り、オストワル辺境伯はアンを守ることに同意した。それは、最強の騎士団長ジョセフの命を救ったり、街の疫病を止めたりと、オストワル辺境伯にしてみても恩があったからだろう。

 すぐにオストワル辺境伯領の住人には、薬師アンについて箝口令が敷かれた。
 そして、騎士団の見守りも一段と厳しくなったのだ。


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