追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

 こうして三日が過ぎ、三日目の晩のことだった。



 私はうとうとしながら、薬をかき混ぜていた。
 男性はまだ目を閉じたままだ。だが、少しだけ顔色が良くなっていることに気付く。心なしか呼吸も落ち着き始めている。よし、この調子だ。

 手に貼った調布剤を取り替え、活力薬を口に入れる。そしてまた、焚き火の前に戻った時……
グルルルルル……
 おぞましい唸り声が聞こえた。その唸り声を聞くと、全身の毛が恐怖で逆立つようだった。

 何も見ない、何も聞かない、きっと何かの間違いだ。必死に自分に言い聞かせる。
 そうだ、きっと疲れているんだ。疲れて夢を見ていたんだ。
 ……そうそう、目の前に無数の光の点。

 ……光の点!?


 はっと我に返った。
 夢だと思ったのに、光の点は消えない。いや、それはただの光の点ではなくて、闇に輝くオオカミの瞳だったのだ。
 薄暗い洞窟の向こうに、闇に浮き出るオオカミの姿。しかも、複数いるらしい。私、次こそ本当に死んでしまうのかもしれない。なんというハードモードだ!

 私はオオカミを前に動かない男性を見た。ようやくここまで良くなったのに、オオカミになんて食べさせない!!

 咄嗟に匂いのキツい薬草を投げつけた。辺りに薬草の匂いが充満する。オオカミは怯んで一歩後退りをする。それを私は見逃さなかった。

 ちょうど松明にしようと作っていた棒切れを油に付け、焚き火へかざす。ぼっと火柱が上がり、辺りが急に明るくなった。その松明を振りながら、オオカミに近付く。

「ほら!あっちに行きなさい!
 私やこの人を食べても、薬漬けだから美味しくないよ!」

 オオカミが私に飛びかかるが、運良く振っていた松明に当たった。
 あまりの熱さにオオカミは苦しい叫び声を上げ、犬みたいにキャンキャン鳴いて去って行った。


「ちょろいものよ」

なんて言いながらも、体は恐怖でがくがく震えている。私は松明を持ったまま、その場に崩れ落ちた。
 ただひたすら怖くて、気付いたら宮殿を去って初めて泣いていた。


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