追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる


 次の日……
 
 私は必死で考えた。ここにとどまるのは危険だと。
 あのオオカミは、復讐に来るかもしれない。だけど、男性はまだ気を失ったままだ。十メートルほどの距離を運ぶのにも死ぬ思いだったのに、どこか別のところに移動することは不可能だ。
 だが、もちろん男性を置いていくわけにはいかない。せっかく元気になってきたのに、ここに置いておくのは人殺しも同然だ。

 彼は相変わらずすやすやと眠っている。もう熱はなく、傷も治りかけている。ただ、意識が戻らないのだ。

「ねぇ……そろそろ起きてよ」

 私はぼやいていた。

「あなたが起きたらオオカミを退治してくれる……なわけ、ないよね」

 オオカミのことはさておき……私も、そろそろ体力的に限界だ。だが、あの恐怖体験の後で、今夜は眠って過ごすなんてこと出来るはずもなかったのだ。



 結局、何も状況は解決することもなく夜を迎えた。
 男性はすっかり良くなり、気持ちよさそうに眠っている。悪かった顔色も良くなり、まるで笑っているかの寝顔だ。大人の男なのにこんな無邪気な寝顔を見ると、胸がどきんとするのと同時に笑顔になる。彼が元気になるのが待ち遠しいのだが……

 暗くなるにつれ、また恐怖が襲う。睡眠不足で血走った目で、洞窟の外をずっと見ていた。
 遠くでオオカミの遠吠えがし、体中を恐怖が走った。
 分かっているが、この森にはオオカミがいるのだ。その事実が恐ろしい。私は大量に作った松明を手にした。

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