追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
彼は泣きそうに顔をくしゃっとして、私を見る。そのまま足を引きずりながらよたよたと私の前まで歩き、頭をくしゃっと撫でる。
少なくとも敵意は無さそうでホッとするが、本当に誰だろう。不思議に思う私の前で、彼は泣きそうな顔のまま告げた。
「アン•ポーレット。僕は君と離れてから、君のことを考えなかった日はなかった。
君は王宮に拾われて、何をしているのだろうか。嫌がらせは受けていないか。ずっと心配していた」
彼は私の頭に手を置いたまま、信じられない言葉を吐いたのだ。
「君は僕のことを覚えているか?
……僕は、君の兄のヘンリー•ポーレットだよ」
……え!?兄って……
「お兄様!?」
目を見開いて彼を見る。すらっと背の高い彼は、私によく似た顔で幸せそうに笑っている。
私は小さい頃に両親が亡くしたため、家族の記憶がほとんどない。兄がいたことは知っているが、兄の顔すら覚えていないのだ。それが、こんなに優しくて穏やかそうなお兄様だったなんて!しかも、一般的に見ると美形の部類に入るだろう。
「アン……、会いたかったよ。
この街のジョセフ騎士団長がアンがいることを教えてくれて、僕はいても立ってもいられなくなってすぐに来たんだ」
「ジョーが……?」
そういえば、ジョーが私の兄に手紙を書くだなんて言っていたことを思い出した。ジョーはきっと、天涯孤独の私の寂しさを紛らわそうとしてくれたのだ。お兄様に会えたことも、ジョーのおかげだ。
ジョーを思うと胸が熱くなる。
お兄様は目を細めて私を見て、手を伸ばす。私はその腕の中に飛び込んでいた。
ジョーにも同じことをされたが、ジョーの腕には飛び込めなかった。それは、ジョーに恋情を抱いているからだろう。ジョーに触れるだけでおかしくなってしまいそうな私だが……お兄様の腕の中は、懐かしい思いでいっぱいになる。ようやくこうやってお兄様と会えて、胸が張り裂けそうだ。
「アン……本当に大きくなったな」
懐かしむような柔らかい声。
「アン。辛い思いをさせてごめんね」