追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
 私は、今の今までお兄様がこのヘンリー•ポーレットであることを知らなかった。そして、お兄様も私の知らないところで苦労をしてきたのだと思い知る。

「アン……これを聞いて、僕のことを嫌わないで欲しい。
 やっと会えた妹なんだから」

 そう言って、ヘンリーお兄様は話を始めた。その話は、私が初めて聞くことばかりだった。
 震えながら聞く私の隣にはジョーがいて、そっと手を握ってくれた。だから少しだけ、心が落ち着いたのも事実だった。



「僕たちは、王都から近い水の都、ポーレット侯爵領で生まれた。
 父上は当時侯爵として、ポーレット領を取り仕切っていた。母上は結婚前は王宮薬師として、王宮に勤務していた。
 母上は才能に恵まれ、その若さで王宮薬師長をしていた。母上のおかげで、王宮治療院は飛躍的に進歩したんだよ」

 お兄様が嬉しそうに私に告げる。母親が王宮薬師長をしていただなんて……そんな話、初めて聞いた。
 そして、母親がそんなにすごい薬師と聞き、誇らしい気持ちでいっぱいになる。

「母上は父上からの猛アピールを受けて、ポーレット侯爵家に嫁いだ。
 そして、僕とアンが生まれ、しばらくは幸せに生活をしていた」


 ここまで話をして、お兄様は息を吸った。そして、暗い表情になる。

「父上には、腹違いの弟がいた。この弟は、ずっと父上の座を狙っていた。
 ある日のこと、この弟は寝ている父上をいきなり刺し……殺害した。そして母上も、父上を殺されて精神を病み、すぐに亡くなった」

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