追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
お兄様と、故郷へ帰ることになりそうです
一緒にポーレット侯爵領に帰ろうって言われても……どうすればいいの?
思い浮かぶのは、ジョーの笑顔。
結局、お兄様には何も返事が出来なかった。このままオストワル辺境伯領でジョーと暮らすと思っていたのに、思わぬタイミングで家族の登場だ。
ずっと孤独で生きてきた私にとって、ヘンリーお兄様は初めての家族だ。家族という当たり前のことに憧れがあったのも事実、それがようやく叶うのだ。
「おっ、お兄様!その件は考えておきます!」
慌てて告げると、お兄様は驚いた顔をする。
「えっ、なんで?」
もちろん、お兄様と一緒に行きたい。でも、ジョーといたい。私の心は真っ二つに割れてしまいそうだ。
そして……
「アン。お願いがあるんだけど……」
お兄様は私に告げた。
「僕、権力争いのなかで足を負傷してしまって、足が上手に動かせないんだ。
アンの治療の腕はすごいって、この街のみんなが言っていた。僕の足を治療してくれない?」
こういうわけで、お兄様はしばらくこの地にとどまり、私はお兄様の足を治療することになったのだ。
お兄様はポーレット侯爵領の領主。さすがに侯爵を治療院に泊めてはいけないだろうということになり、お兄様と側近はオストワル辺境伯邸に泊まることとなった。私はそこに治療のために通うのだ。