追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる



 オストワル辺境伯邸のホールで、会食は始まった。
 マナーなんて知らない私はどう振る舞っていいのか分からなかったが……

「アン。肉にするか?それとも、魚か?」

 ジョーが始終私に付いて回り、欲しいものを取ってくれる。まるでメイドのようにさせてジョーに申し訳ないが、ジョーのおかげで救われた。ジョーもきっと、私の気持ちを察してくれているのだろう。そして、時折物思いに耽ったような悲しい顔をするのだった。


 食べ物を取り終わると、

「アン。ヘンリー様と食事をするか?」

ジョーが聞く。そして私はふとお兄様を見た。
 人懐っこくて明るいお兄様の周りにはたくさん人がいて、初対面であろうセドリック様とも打ち解けてしまっているようだった。嬉しくも思ったが、私の出る幕ではないのだろう。

「ううん、私はここでジョーと食べるよ」

 なんて言いながらも、ジョーは本心ではお兄様のほうに行きたいのではないのかと思ってしまった。だから、おずおずと付け足した。

「ジョーも……みんなのほうに行ってもいいよ」

 だけど、ジョーは顔をくしゃっとさせて笑い、私の髪をそっと撫でる。

「俺はここがいいんだ。アンの隣にいたい」

 そういうの、反則だ。私はますますジョーから離れられなくなってしまうから。でも……ジョーからは離れないといけないのかもしれない。ヘンリーお兄様が、故郷のポーレット領で一緒に暮らそうと言ってくれたから。もちろんジョーが引き止めれば私はここに残るが……ジョーは何も言わない。所詮、そこまでの女なのかもしれない。

< 94 / 180 >

この作品をシェア

pagetop