追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「アンとこうやって食事をすると、二人で旅をしたことを思い出すな」
ジョーはぽつりと告げる。
「アンがいたから、毎日が楽しかった」
「私も楽しかったよ。
それに、ジョーが石を投げて鳥を撃ち落とすから、なんて生存能力の高い人なんだろうと思った」
「アンがいるから頑張ったんだ」
ジョーは私の前にあるステーキを、すっと取りやすい大きさに切ってくれる。あの冒険の日々だってそうだった。ジョーはこうやって密かに私をお姫様扱いしてくれる。
そして、フォークに肉を刺して私の口の前に差し出す。
私はそれが見えていないふりをしながら、ジョーに告げる。
「すごいよね、ジョーって。
こうやって貴族の生活にも慣れているのに、山に一人で放り出されても生きていける。剣の腕だって、国内一番かもしれない」
こんなジョーと私が釣り合うはずがないだろう。なぜかジョーは私を好いていてくれるが。
ジョーは私の前に肉を差し出したまま、甘い声で話しかける。
「それでも、俺は不安で不安で仕方がないんだ」
「……え?」
悲しくて、泣いてしまうのではないかという顔で私を見るジョー。その顔を見るのが辛くて、私は差し出された肉をぱくりと口に入れていた。
「おいしい?」
頬を緩ませながらも、切なげに聞くジョーに、
「美味しい」
私は答えた。
「でも、山でジョーが私に焼いてくれたウサギや鳥の肉のほうが、もっと美味しかった」
「そうだな……」
私たちは身を寄せ合って、楽しそうに騒いでいるお兄様たちを見ていた。お兄様も大切だが……私はジョーといたい。ジョーとこのオストワルでのんびり暮らしたいのだ。