追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
お兄様はこんなに怖がりで、よく領地内の権力争いに勝てたと驚くばかりだ。きっと、剣の腕だってそこそこ強いだろうし、傷だって絶えなかっただろうに。
お兄様は諦めたようにベッドに寝そべった。そして震えるその足に麻酔を塗り、鍼を打つ。もちろん、お兄様の予想以下の痛みで、ほとんど何も感じないうちに治療も終わるだろう。まったく、困った人だ。
お兄様も、そのうち治療が効いてきたようで、
「足が温かくなってきた」
なんて言ってくださる。そして、ガチガチに緊張していたのも少しずつほぐれているようだ。
お兄様が落ち着いてきたため、治療をしながら色々と考えてしまった。ここにいるのは、本当にお兄様だということがまだ信じられない。ずっと一人で孤独で、人に甘えずに生きてきた私の、初めての家族。お兄様を見ると、頬が緩んでしまう。
「お兄様。ポーレット領は、どんなところなのですか?」
そう聞くと、お兄様はベッドに寝そべったまま目を閉じて教えてくれた。
「水の都ポーレット領は、大きな運河と海に挟まれた美しい街だよ。
運河には船が行き交い、ほとりではコンサートが開かれ、水鳥が飛び回る。僕は、ポーレット領が大好きなんだ」
「そうなんですね……」
そんな美しい街に、一緒に行ってみたいな。お兄様と川辺を散歩したり、海の近くのレストランで食事をしたり……だが、私はこのオストワルの地だって負けず劣らず魅力的だと思う。そして、やっぱりジョーのことが気になってしまうのだった。