彼女に好きな人が出来ませんように
「ただいまー」

家に帰ると、早速お母さんがお玉を持ったまま出てきた。


私が友達と遊ぶということがよっぽど珍しかったからだろう。


「おかえり〜みずき!どうだった?」

「凄い楽しかったよ」

私の口元がほころんでいたのがバレたのか、


「でしょうね」


と意味深な表情で言ってきた。


リビングに入ると、姉がソファに寝転んだまま言った。


「あんたーデートでもしてきたん?」


え、で、でーと?


「そんなに髪も服もバッチリ決めて、ましてやお出かけなんて珍しいの極みじゃん」


「最近みずき、恋する乙女の雰囲気出てるわよね〜」


と母まで変なことを言い出した。


「別に、そんなんじゃないけど…」


「みずきも遂に好きな人が出来たのね〜」


と、二人してニヤニヤして。


「だから違うって…好きとかよくわかんないし…」

「いい?好きっていうのは」 


そう言って姉がゴホンと咳払いした。


「ずっとその人の事を考えちゃったり〜

嫉妬したり〜

一緒にいるとドキドキしたり〜

会いたいとか寂しいとか思ったり〜」


「あと、その人の事を喜ばせたい!と思ったりもするわね!」


と、母も料理をしながら続けた。


「私も、いつもあなたのお父さんを喜ばせたいと思ってお弁当作ってるのよ〜」


私は最近のことを思い返してみた。


なつみが転校してきてから、ずっとなつみのことを考えている。


なつみが他の人と話していた時に感じた、あのモヤッとした変な感情。


今日感じた、お腹で蝶が跳ねるような不思議な感覚。


なつみと別れた時に感じた寂しいという感情。


なつみのことを喜ばせたい。


なつみの笑顔が見たい。


そして今…ものすごく彼女に会いたい。


え…そうなの?


これが、好きっていう感情なの?


私、なつみのことが好きなの…?


そう思い出した瞬間、なんだか居ても立っても居られなくなって、


リビングを飛び出した。
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