彼女に好きな人が出来ませんように
ドクドク、ドクドクと


心臓の音がうるさい。


静まれ、私の鼓動…


今日はついに、なつみとのお祭りの日。


昨日はまた緊張してろくに眠れなかった。


今、待ち合わせ場所でなつみを待っている間にも心臓が口から飛び出そうだ。


一応私達は、着物を着ることにした。


私はもちろんそんなの持っていなかったので、少し古いお母さんのお下がりを着ている。


なつみはどんな着物を着てくるのかな。


想像しただけで、胸が熱くなる。


ああもう、落ち着いて、冷静に。


「ああ!みっちゃーーーん!」


少し離れた所から、なつみの声がして


反射的に後ろを振り向いた。


「なつみ…」


私の瞳に写っているのは、


黄色の生地にピンクのお花が散りばめられた可愛いらしい着物に身を包んだ、


小さくて可愛いなつみだ。


なつみらしい着物。


やっぱり、想像した通りだった。


「お待たせ〜!」

「ああ、走らないで、転ぶよ!」

「うわぁ!」


あっっぶない


走ってきて躓いたなつみを、とっさに腕で受け止めた。


「あああみっちゃんごめんん!」

「大丈夫?怪我は…」


待って、近い。


「大丈夫だよ、ありがとう!みっちゃんのおかげで助かった〜」


そう言って下から見つめてくるなつみは、ズルすぎるくらい


かわいくて。


そして少し、バニラのような甘い香りがする。


反則だ。



「じゃ、じゃあ、そろそろ行こっか」


「うん、そうだね!」


自分だけこんなにドキドキして、何だかバカバカしく思えてくる。


でもこれは仕方ないか。


好きなんだから。


今、好きな子とお祭りに来ている。


きっとそれだけで、素晴らしい事なんだろうな。











「わああ見て見てみっちゃん!りんご飴!」

「買ってみよっか」

「うん!」


2人でりんご飴をゲットした。


何気に、生まれて初めてのりんご飴かもしれない。


「私これ、初りんご飴だ。」

「え、私も!」

「てか私ね、地元にこういうお祭りがあんまり無くてさ、着物でお祭りに来るの夢だったんだ〜!」

そう言ってなつみは嬉しそうにりんご飴をかじっている。


「なつみ、その着物凄い似合ってるよ」

そう言うと、
 

「え、ほんと?!嬉しい!似合うか不安だったんだ〜」


とまたニコニコ嬉しそうだ。


「なつみって、黄色が好きなの?」


前も黄色のワンピースを着ていた。


「うん!黄色は私のお気に入り!」

「そっか。何か、なつみの為の色って感じがする。」

「ええ、そうかな??」


「みっちゃんって、いつも褒めてくれるよね!」


「えっっ、そう、かな?」

「うんうん、人の良い所見つけるのが上手というか、ほんとみっちゃんのそうゆうとこ素敵だなって思う!」

「あ、ありがと…」

こういうとき、何て言えばいいんだろう。


なつみに言われると余計恥ずかしい。






「あ!もうすぐ花火始まるんじゃない?!」

「あ…ほんとだ」

「行こう行こう!」


そう言ってなつみは私の手を引っ張った。


私が、内心こんなにドキドキしているとは知らずに。
















花火が打ち上げられる河川敷の辺りは、人で溢れかえっていた。


「わあーーやっぱり人沢山だね〜」


「なつみ、はぐれないでね」


なつみは小さいからすぐ人に飲み込まれてしまいそうだ。


「私の袖とか、掴んでていいから。絶対離れないで」

「みっちゃん…」



いきなり、私の手に何かが当たった


と思ったら、それはなつみの手だった。



「じゃあ、手繋いでもいい?」


手…!


一気に体温が上がるのを感じた。





「えっと……う、うん!」


なつみは小さな手で、私の手をギュッと握ってきた。


私の手は結構大きいから、なつみの手をスポッと包み込める。


このサイズ感も、何だか愛おしく思えてきた。


このドキドキ、なつみに伝わってないだろうか。



「あ!始まった!」


ヒューーーッドーーーーーン


大きな田舎の黒い空に、カラフルな花が咲き誇った。


「わあ〜綺麗〜」


「ほんと、綺麗だね」


ドーンドーンという花火の音に、負けないくらい私の鼓動はドクドクなっている。



もっと綺麗なものを、私はなつみに見せてあげたい。



「ねえなつみ、花火の後に、ちょっと連れていきたい場所があるんだけど」
 

するとなつみは目を輝かせた。


「えっなになに?!行きたい!」


「それは後でのお楽しみ」


夜空に咲く沢山の花達を、私達は思う存分に楽しんだ。






























ー「なつみ、こっち。足元気を付けて」
 

花火が終わって、私達はとある場所に向かっている。


人気のない、河川敷を少し登ったところだ。






「わああああああ!綺麗!!!」


そう、ここは周りに明かりがあまりないので、綺麗な星空が見られる場所。


「こんなに綺麗な星空初めて!さっきの花火より綺麗かも〜!」


「喜んでもらえてよかった!」


私達は草原に座って、しばらく星空を眺めた。











「みっちゃんってさ、何かかっこいいよね」


「ええっ、そ、そう?」


「うん!何か、いつも落ち着いてるし、こんなに沢山綺麗な場所知ってて。さっきも転びそうになったとき助けてくれたし!」


「なんか私、幸せ者だ〜」


暗くてあんまり見えないけど、いつものようにとびっきりの笑顔をしているのはわかった。


そんな事言われたら…




























「なつみ、好きだよ」





…言ってしまった。つい、我慢できなくて。




するとなつみは、



「もうみっちゃん、急にどうしたの!」



と照れたように言った。




「私もみっちゃんのこと大好き!」





私の好きとなつみの好きは、きっと意味が違う。






…でも、いいや、今はそれで。




なつみのそばにいられれば。




「あ!みっちゃん見て!流れ星!」




いつか、絶対に伝える。




でも、それまでは




願っていよう。





なつみに好きな人が出来ませんように。
< 15 / 15 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop