ハーフ☆ブラザー その瞳もこの唇も、僕よりまいさんの方がいやらしいのに？

多香子さんは『シャル・エト』のパティシエールだ。まいさんとすごく仲が良いみたいで、まいさんとの会話でもよく出てくる女性だった。

「なんですか？」

半開きの扉から小柄な身体をのぞかせ、僕を手招きする多香子さんに近寄った。

「ね、今日も舞さんの帰り待ち、してるよね？」
「えぇ、まぁ」
「だよねだよね、カレシくん、舞さん公認ストーカーだもんね！」
「……はぁ」

面白そうに僕を見上げる多香子さんに、苦笑いしながら相づちをうつ。

「はい！　じゃあ、そんなキミに、プレゼント！」

差し出されたのは、名刺大のカードケースに数字の書かれた紙が入った物。
角に空いた小さな穴に、３０センチほど輪になったヒモが通されている。

……プレゼントって。コレ、なんだろう？

首を傾げながら受け取ったそれを見つめる僕に、多香子さんが言った。

「それ、業者さんとか来客用の館内パスなんだけど。特別にカレシくんに渡しとくから、閉店間際になったらお店に来てね」
「……ええっと、ごめんなさい。よく解らないんですが」
「あっ、順序立てて話さないとイミ解んないか！　今日ね」

多香子さんが言いかけた時、店のほうから、

「森下(もりした)さん、お願いします」

と、聞こえてきた。少し高めの声は、まいさんの接客用だった。