ハーフ☆ブラザー その瞳もこの唇も、僕よりまいさんの方がいやらしいのに?
……あの人の名前がだされるたび、過ぎた日のことがもちだされるたび。僕の胸の内側を、ざらざらとした嫌な手で、なでられている気がした。

*****

佐木家のお雑煮とおせち料理は毎年お父さんが作るらしい。
リビングから聞えてくるのは、年末恒例の歌番組で。若手の男性演歌歌手が、司会の男女と軽妙な会話を交わしていた。
年越しそばの用意を済ませた僕は、キッチンに立つお父さんの脇に、そのまま残っていた。
「新しい年は大地くんも一緒に迎えるわけだし、腕によりをかけてこしらえるからな。心配かもしれないが、黙って見ていてくれ」
確かに一年に一度の割合のせいか、お父さんの包丁さばきは、かなりあやしい。
まいさんや僕のためにと張り切っているお父さんを見ると、手をださずに見守るのが一番に思えた。
───だけど。
「あの、お父さ───佐木、さん。お話ししたいことが、あるんですけど」
呼びかけを意識的に変えた僕に気づいて、お父さんが手を止める。
僕を数秒ほど見つめてから包丁を置いた。
「……分かった。君の話を、聞こう」

*****

まいさんは、お風呂に入っていた。
なんとなくだけど……まいさんのいない所でお父さんと話したい内容だった。
場所をリビングに移して、お父さんはそれまで流して聞いていたらしいテレビを消した。
そして、僕と同じソファーに腰をかけてきた。
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