好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

「社長、専務、お疲れ様でした」
「お疲れさま」

式典を終え、機材の片付けをしている社員たち。
既に会場には来賓の姿はなく、ホテルスタッフと自社の社員だけ。

「春親」
「奥さんとこ、行きたいんだろ?」
「悪い」
「友香は戻って来ないと思うから、早く行ってやれ」
「サンキュ」

友香は自社サイトに殺到している問合せの対応で、会社にいる。

士門は式典会場に残るスタッフ達に声を掛けながら、その場を後にした。



二谷から預かったカードキーで部屋のドアを開ける。
まだ胡桃さんが寝ているかもしれないから、できるだけ静かに歩み進めて。

広々としたリビングに二谷の姿はない。
どこかに出ているのだろうか?

部屋のカードキーは2枚あり、そのうちの1枚を士門が持っている。

寝室のドアを開けようとした、その時。
ドアが数センチほど開いていて、その隙間から中での会話が漏れて来た。

「ファスナー下ろして」
「え、……ですが」
「いいから早く、士門さんが来る前に…」
「……では、失礼しま「ストーーーップッ!!そこまでにして」

今までなら絶対躊躇して聞かなかったことにしてただろう。
だけど、もう我慢することは止めにした。

「士門様っ」
「悪いが、それ以上彼女に触れないで……いや、違うな。俺の妻に触れるな」
「ッ?!……士門さん?」
「今日はここに二人で泊まるから、彼女に必要なものを明日の朝、ドアノブに掛けておいてくれ」
「……承知しました」
「後は俺がやるから、今日は上がってくれ」
「では、お先に失礼致します」
「二谷っ」

深々と一礼し、踵を返した二谷を呼ぶ彼女の手をぎゅっと掴んだ。

君に必要なのは『彼』ではなく、『俺』だろ?
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