好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
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士門さんがシャワーを浴びている間に、彼が買って来てくれた下着をつける。

どういう風の吹き回しだろう?
急に優しくなったというか。
至れり尽くせりで戸惑ってしまう。

洗面室に置かれていたアメニティでスキンケアはできたけれど、メイク道具は置かれていないから、バッグの中にあった最低限のものを施した程度。

クッションファンデとティントとアイブロウくらいだ。
幼く見えないだろうか?

いや、そもそも私に興味すらないか。


窓から見える夜景を呆然と見つめる。

そう言えば、結婚して7年経つのに。
こんな風に彼とホテルに泊まったことすらない。

パーティーやレセプションに呼ばれ、私はそのままホテルで宿泊したことは何度かあるけれど。
彼は別の部屋を取っていたのか。
同じ部屋で泊ったことはこれまで一度もない。

今夜だって、隣りの部屋か。
あの人がいる部屋に泊まるに決まっている。

妻だけれど、一番遠い存在だ。



「食べててよかったのに」
「ッ?!……っ」

窓の外の景色を眺めていたら、突然背後から抱き締められた。

私を傷つけた侘びのつもりなのだろうか?
それなら、余計に傷つくし、惨めになる。

「俺、お腹ペコペコなんだよね。一緒に食べよ?」

耳元に囁かれる甘い声。
全てを許してしまいそうになる。

通常のルームサービスとは少し違い、お重のような箱膳に盛り付けられた高級な松花堂弁当のようなもの。
食欲がないと思われたのかな。
少しずつ盛られたそのお料理は上品な味付けで、優しいお味がした。
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