好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

不倫をしている。
彼女以外に愛せない。

秘密は2つだと言うけれど、言われなくたって分かってる。
それを無条件で受け入れて欲しいだなんて。

あぁ、そうか。
離婚はしたくない。
だけど、今まで通りに愛せない。
愛するのは彼女だけだから、それを受け入れろ……そいうことね。

私に拒否する権利なんて初めから無い。
あの傲慢で冷徹な父親から逃れられただけでも有難いのだから。

今夜のようにたまに見せる優しさで満足しろ、そういうことか。

『分かりました』
そう言葉にしなければならないのに、なかなか口から出て来ない。

それを言ったら、現実を受け入れざるを得ないからだ。

今までは、きっとそうなんだろうなぁ…と思っていても。
それが現実だということから目を背けていた。

だけど、今彼から全てを聞いてしまったら。
もう心の拠りどころがなくなってしまう。

「そんな不安そうな顔しないでよ」
「っっ……」

何でそんな優しい瞳をするの?
今から私を奈落の底に突き落とすのに。

この7年で嫌な想いをしたことは何度もあった。
だけど、幸せだと感じることも少なからずあったから。

それらがこの先、もう失くなってしまうのかと思うと、やっぱり辛い。
どんな顔をして彼の話を聞いたらいいのだろう。

「えっ、何で泣いてるの?俺、何かした?」

気づかぬうちに涙が溢れていた。

その涙をそっと指先で拭う彼。
涙の止め方が分からず、ぎゅっと瞼を閉じた、次の瞬間。
彼の唇が頬に伝う涙を絡め取った。

「好きだよ、胡桃さんが」
「……へ?」
「毎日、心の中で二谷をめった刺しにするくらい嫉妬もしてるし、ずっと我慢して来た」
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