好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

ドア一枚。
距離にして数メートルしか離れてないはずなのに。
挙式の時よりも動悸が激しい。

篁社長から縁談を持ち掛けられ、彼女の釣書と写真を頂いた。

十八歳とは思えないほど大人びていて、深窓の令嬢と言わんばかりの奥ゆかしさを感じた。
凜としているのにどこか儚げな感じも兼ね備え、美しさの中に気高さを感じるような。

勉強とゲームにしか興味のなかった俺には、贅沢すぎるほどの縁談だと思えた。

『大事に育てたばかりに、少し個性的な性格の子に育ってしまった』だなんて篁社長は仰ってたけれど。
ゲームクリエイターの俺にしてみたら、個性的な性格はデメリットじゃない。

奇抜な発想こそが命みたいな世界だから、個性的という概念は俺にとったら魅力的にしか思えない。


お見合いのあの日。
白地に淡い水色のぼかし染めの振り袖姿の彼女は、本当に綺麗で。
優雅に歩く姿が、俺の視線を奪い去った。

こんなにも綺麗な人が、十八歳という若さで。
しかも、お見合い結婚という形で本当にいいのだろうか?と思ったほどだ。

気づけば、『私と、結婚だけ、して貰えませんか?』だなんて口走ってて。

緊張していたからというのは言い訳にはならない。
一生に一度のプロポーズなのに。
もっと気の利いたセリフが言えたらよかったのだろうが。

ゲームの中でしか恋愛経験がない俺にとって、あれが本当にベストだった。


挙式での誓いのキスをするというのも、当然といえば当然で。
なのに、『まさか、唇にするつもりじゃないですよね?』みたいな顔されて。
正直物凄く動揺したし、ショックだったけれど。

だけど、たった今。
目の前のドアを閉められたことに比べたら、どうでもいいとさえ思える。
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