好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
ノックをしたところで、話しかける話題がないことに気付いた俺は、いけないとわかりつつも、ドアに耳を当てた。
結婚初夜に、妻の寝室を盗み聞きするだなんて。
どう考えても尋常じゃない。
俺がおかしいのか。
これが現実じゃないのか。
もう考えることすら、馬鹿ばかしく思えるのに。
ドアから離れることができずにいる。
『二谷、下ろしてくれる?』
ドア越しに彼女の声が聞こえた。
“下ろす”って、何を?
まさか、ワンピースのファスナーじゃないよな?
『お嬢様、痛かったら遠慮なく仰って下さいね』
『本当に疲れてるの。いいから早くしてちょーだい』
『では…』
えっ、待って。
“痛かったら”って、何をする気なんだ?
執事の二谷は、男の俺が惚れ惚れするような整った顔つきで、文句がつけようがないほどスタイルもいい。
ダメだ。
見えないと、変なことばかり考えてしまう。
趣味が高じて会社を立ち上げ、恋愛ゲームだって幾つも手掛けて来た。
幅広い年齢層に合わせて、たくさんのシチュエーションを組み込んで来た俺にとって、ドア越しで交わされる会話の意味が分からないわけじゃない。
いや、ゲーム云々じゃないか。
一人の男として、見過ごせない状況だろ。
コンコンコン。
意を決してドアをノックした。
「……あっ、はい」
返事が返って来たと同時に素早くドアを開けた、その先にいたのは……。
「……ごめんなさい、お見苦しい姿で」
「………」