好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

「俺のために捌こうとしてたの?」
「……はい」
「フフッ」
「笑わないで下さい」
「魚の皮も触れないのに?」
「っっ…」

世間知らずなのは認めるわよっ。
生きてる魚どころか、売られている魚ですら触れない。

いつだって、切り身の状態で調理されているものしか食べて来なかったから。
図鑑や動画資料で観るのとは違うことくらい分かってる。

だけど、生き物自体飼ったことがなくて。
小動物ですら触ったことがないんだから仕方ないじゃない。

「俺のために偉いえらい」
「っ……」

幼い子供をあやすみたいに、頭を優しく撫でられた。



7年越しの新婚旅行に行って以来、彼との関係性は180度変わった。

常に素っ気ない態度で、たまに優しい顔を見せてくれた彼が、今では常に甘々モードで接してくれる。
しかも、こうして―――。

「今日は2()日だって分かってる?」
「っ……はい、分かってますよ」

二谷が傍にいようがお構いなしに熱い眼差しを向けて来て、おねだりするみたいに首を傾げた。
色気のある煽情的な視線だ。

4と0が付く日は、彼の日。
6と9が付く日は、私の日。

二人で決めた『リクエストの日』。
それぞれの名前の語呂から取り、お互いにおねだりができる日をつくった。

前と違って毎日ラブラブだけれど、リクエストの日は、全力で相手のお願いに応えるのが私たち夫婦の新しいルールになった。

「後は私が致しますので、お嬢様は士門様の着替えの手伝いを」
「そうさせて貰うわ!行きましょ、士門さん」

彼の腕に自分の腕を絡ませ、生臭いキッチンからすぐにでも退散したいのが本音。
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