好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
4月1日。
ALKはこの10年で大企業へと成長し、今年は入社式を二部形式にした。
都内有数のホテルで行われ、一部、二部共に懇親会も開かれた。
19時過ぎに帰宅した士門は、いつもと違い室内が薄暗い雰囲気に少し違和感を覚える。
玄関は人感センサーで灯りがつく仕様だが、リビングドアのすり硝子からいつもは灯りが漏れてくるのに、今日は何故か真っ暗なのだ。
夕食は済ませてくると伝えてあるから、夕食の用意がされてなくても違和感はないが。
家中が真っ暗だと、少し不気味悪い。
妻の書斎兼アトリエのドアをノックし開けてみるが、やはり真っ暗。
夫婦の寝室のドアを開けても真っ暗だし、自分の書斎のドアを開けても暗いまま。
スマホを確認してみたが、胡桃からも二谷からも連絡はない。
不安になりながら、リビングへと。
すると、ダイニングテーブルの上に走り書きのようなメモが置かれていた。
『つわりが酷く、実家に帰りたいと言うので、暫く留守にします』
いつもの達筆な字と違い、少し焦っているような、二谷の文字。
「え…、どういうこと?」
つわり?
それって、妊娠ってこと?
俺には何も連絡がないのに、二谷には伝えて……。
しかも、顔を見るのも嫌がる父親がいる実家に帰ったってこと?
混乱する頭で気が狂いそうになる。
けれど、1つだけ言えることは……。
状況がどうであれ、俺と胡桃との子供ができたのであれば、他に何も言うことはない。
すぐさまスマホで彼女に連絡を入れようとした、次の瞬間。