好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
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「二谷、珈琲をちょーだい」
「おはようございます、お嬢様」

朝が弱い胡桃は、半分寝ぼけまなこでリビングのソファに腰を下ろす。
すると間もなくして、深みのある芳醇な香りの珈琲が目の前に置かれた。

「士門様は既にご出勤(休日出勤)されました。お戻りは二十時頃とのことです」
「ッ!!」

二谷の言葉にはっと息を呑む。
そうだった。
私は昨日、結婚したんだった。

昨夜、式場から帰宅した後、彼との会話のやり取りで再認識した。

結婚初夜なのに、『おやすみ』も言って貰えなかった。
『部屋で待ってる』『支度が終わったら部屋においで』そんなドラマのようなセリフを期待してたわけじゃないけれど。

スプレーで固められた髪を解しながら、二谷にヘッドドレスを外して貰っていた中、彼の登場に正直戸惑ってしまった。

山姥のような乱れた髪の状態だったけれど、お茶に誘われたのだと嬉しく舞い上がった、次の瞬間。
『君好みの紅茶を彼が淹れてくれるのなら、俺は必要ないね』
そう言った彼の目は、突き放すみたいに冷たかった。

シャワーを浴びて、髪も肌も整えて。
大人の彼に好かれるように、少しラグジュアリーな下着とネグリジェを用意していたのに。

『この結婚に愛は求めるな(・・・・・・)』、再確認のために念を押された気がした。


挙式の直前にも、披露宴の最中にも、彼の会社のスタッフらしき女性たちが彼を取り囲んでいた。
二谷に手を引かれていなかったから、ショックで座り込んでいたかもしれない。

『俺のことに口出しするな』そう言われている気がして。
必死に顔に笑顔を貼り付けていた。
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