好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

「お嬢様、どうかされましたか?」
「……ううん、何でもない」
「士門様は?」
「まだお仕事があるみたい。書斎に…」
「お夕食のご用意が出来ておりますが」
「……」

さっきの様子だと、食事どころではない気がする。
だけど一応、声だけかけておこうかしら……?

士門さんの書斎のドアをノックする。

「はい」

部屋の中から彼の声がして、少ししてドアがゆっくりと開いた。

「あの、お夕しょ……」
「奥様、申し訳ありません。食事は外で済ませて来ましたので」
「……そうですか。お仕事中にごめんなさいっ」

書斎のドアを開けたのは、秘書の木下さんだった。
しかも、彼のブレザーとネクタイを手にした状態で。
それが視界に入って、思わず言葉を失ってしまった。

前途有望な彼に婚姻を迫ったのは私の父親だ。
だから、彼からしてみれば、六歳も年下の私なんて最初から眼中にないのだろう。

だってあんなにも綺麗な人が、公私ともにいつも傍にいるのだから。

「二谷、食事は私の分だけでいいわ」
「え?士門様の分は宜しいのですか?」
「えぇ、外で済ませて来たそうよ」
「……左様にございますか」

既にダイニングにセッティングされている食事。
あとは温めたスープを用意するだけだったようだ。

二谷は家事や雑務は勿論のこと、仕事のアシスタントとしても優秀で、私専属のスタッフとして雇った人物。
母を亡くしてから心を閉ざしていた私に、絵を描く楽しさを教えてくれた人物でもある。


自宅での食事を強要しないというルール。
どこで誰と食事をしたのか?ということさえ、仕事に関わっているのかもしれないから聞くことすらできない。

私は所詮、お飾りの妻(・・・・・)なのだと。
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