好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

夫である士門さんと、もう二週間近く会ってない。
普段は完全に放置されているようなものなのに、たまに可愛らしい花束だったり、美味しいと評判の洋菓子店のケーキを買って来てくれる。

これが世にいう、妻の機嫌取りというやつなのだということも分かっている。
愛妻への贈り物ではなく、機嫌を損ねない程度の関係を保つための餌。

家族愛ですら縁の薄い胡桃にとっては、例えご機嫌取りの花束であっても嬉しかった。

「木下さんって、どんな方なのかしら?洗練された美人で彼の右腕みたいな人だから、きっと仕事もできるのでしょうね」
「士門様の秘書の方ですか?」
「……えぇ」

普段愚痴など零したりしない胡桃だが、さすがに気になっていた。

「ご出身はY大法学部。英語と中国語が堪能なうえ、ゴルフが得意だとか」
「……」
「士門様とは大学時代にお知り合いになられたようで、ALK(アルク)(士門の会社)は、専務の時任(ときとう)春親(はるちか))様と共に、三人で立ち上げられたと伺っております」
「……そうだったのね」

それなら仕方ないのかもしれない。
政略結婚で得た形だけの妻よりも、戦友とも呼べる仲間を優先することくらい。

仕事に関しての質問はNGだと言われたから、あえて聞かないようにしていたけれど。
私は本当に彼のことを何も知らないのだと、改めて痛感させられた。

彼の好物や好きな音楽、余暇の過ごし方など。
本来であれば、結婚する前に交際期間を経て、少しずつお互いのことを知る時間があるはず。

けれど、私たちは形だけの結婚を選択したのだから。
お互いに知ること自体がNGなのだ。
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