好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
「最近うちの会社と取引のある新進気鋭のゲームアプリ会社の社長で、少し歳は離れているが、お前のような変わった思考回路の持ち主でも、広い心で受け止めてくれるような立派な青年だ」
「……そうですか」
父親の言葉がぐさりと突き刺さる。
昔から『不思議ちゃん』だとか『おかしな子』と言われ続けて来た。
友達付き合いができないのだから、仕方ない。
どんな風に声をかけていいのか。
どうやって場の空気を読んだらいいのか。
私にそれらが分かる術はない。
執事の二谷(英司・二十六歳)は、『そのままのお嬢様が素敵です』と言ってくれるけれど。
それが本心なのか、お世辞なのかは分からない。
名門の女子校を卒業し、大学へと進学せずに、自宅に引き籠っている私は、父親から命じられるままの生活。
唯一許されたことは、父親の出版会社で三年前から覆面の絵師(イラストクリエーター)として活動している。
幼い頃から引き籠っていたこともあって、絵を描くことくらいしか自分を主張できる場がなかったというのもある。
最初は挿絵から始まり、キャンペーンのデザイン画だったり。
最近では、コミカライズの絵師としての活動やたくさんの企業とコラボ作品も多く手掛けている。
「失礼します。お嬢様、今宜しいでしょうか?」
噂をすれば何とやら。
執事の二谷がティーセットを手にして現れた。
「旦那様からお聞きになりましたか?」
「えぇ」
手際よく注がれる紅茶。
芳醇な香りと渋みのあるしっかりとした味のウバ。
私の大好きな紅茶だ。