好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

十日ぶりに帰宅する。
春親に背中を押され、クリスマスを彼女と過ごすために今日は勇気を出して誘うと決めた。

駐車場から玄関と向かいながら呼吸を整え、脳内で何度もシュミレーションした会話のやり取りを反芻する。

暗証番号を入力し、玄関ドアを開ける。
すると、甘く優雅な花の香りが鼻腔を擽る。

玄関の一角にアレンジされた百合の花。
夏の花が真冬に飾られている。
きっと彼女の好みなのだろう。

自宅のあちこちに花や観葉植物が飾られている。
その手入れをしているのも、あの執事だ。

意を決して彼女の書斎のドアをノックする。
けれど、数秒待っても返事がない。

十九時を少し過ぎた時間帯だから、寝るにはまだ早いよな。

一応念の為にと、寝室のドアをノックしてみるが、やはり返事はない。

時間的にダイニングで食事でもしてるかもしれないと思った俺は、リビングとダイニングがある廊下の突きあたりへと向かった。

リビングドアのすりガラスから灯りが漏れている。
十日ぶりの帰宅ということもあって、力みながらドアノブを捻った。

「お嬢様、……そのまま」
「……んっ」

視界に捉えたのは、テラスへと続く掃き出し窓の前に置かれたクリスマスツリーの横で、彼女の頬に手を添え、今にもキスしそうな二人だった。

お互いに寄り添い、見つめ合って。
誰がどう見ても、いい雰囲気の恋人同士に見える。

「んっ、ん~ッ」

そのまま見ぬふりをして踵を返せばいいものを。
気付いた時には咳払いをしていた。

「あっ、……士門様っ」
「え、士門さん?!」

リビングの入口にいる俺へと視線を寄こした二人。

「邪魔して悪いね。仕事を思い出したから戻ります。どうぞ、続けて」

第三者は俺だ。

結婚も、クリスマスも。
期待した分だけ、痛い目を見るんだな。
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