好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

一月中旬のとある夜。

乃木(のぎ)さん(BL担当者)、さすがに今から直しは無理ですよ」
「そこをお願いしたいから、こんな時間に電話してるんじゃない」
「巻頭カラーの〆切だって早まりましたし、アンソロジーの分だけでも手一杯だとお伝えしたと思いますけど」
「それは分かってるんだけど、そこを何とか!!凱亞(がいあ)先生(胡桃のペンネーム)にお願いして欲しいの!」
「先生はもう三日もまともに寝てないんですよ?」
「それは分かってるよ~~っ。TL(部門)の並木(なみき)が、ゴリ押しで〆切早めたの聞いてたし」
「それなら、今回は見逃して下さいよ」
「そうしてあげたいのは山々なんだけど、そこを何とか先生に頼んで欲しいの!」

普段はボーイズラブ(BL)の作画だなんて担当しない凱亞だが、読者アンケートで『BL漫画が見たい』という結果が、ダントツで多かったのだ。
読者の意向は社運を左右すると言ってもいいくらい大事なこと。
だから、今回だけという条件付きで読み切りのコミックを担当することになったのだ。

元々は挿絵や表紙絵などの絵師として活動していたのだが、瞬く間に人気が出て、今では何本も連載を抱えるほど。
コミカライズの作品では、有名作家から指名がかかるほどだ。

父親が経営する大手出版会社『七夕社』で、『凱亞』という絵師の名前を知らない人物はいない。
社屋の中央エントランスの壁一面に、累計五千万部超の人気急上昇中の少女コミック(原作は別)の超特大パネルが掲げられている。

イラストクリエーターとしてたった三年。
突如現れた凱亞の人気は、少女コミック界では類をみない売り上げ部数を短期間で叩き上げ、今尚更新中なのだ。

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