好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

え、えっ、えええええええっ。
どうしようどうしようどうしよう。
まだドアを閉めてないのに、いきなりもう脱ぎ出した彼。

ネクタイを引き抜き、Yシャツのボタンを外し始めた。

「まっ、……待って下さいっ」
「ん?」
「手で顔を覆って目を瞑って向こう向いてますので、浴室に入ったら声かけて下さいっ」

法律上は妻だし、同じ家に住んでいる関係だけれど、さすがに刺激が強すぎる。
仕事で何百回、いや何千回と男性の体を描いて来たけど、心の準備ってものが……。

「別に俺は見られても構わないけど。お嬢様には、お目汚しになるよね」
「……そういう意味では」

夫婦だからOKだという意味?
それとも、女性に見られるのは慣れているからOKということ?

彼の言葉の真意が分からない。
だからと言って、堂々と見るだなんて出来ないけれど。

ガチャッとドアが閉まる音がした。

「何からすればいいの?」
「へ?……あ、……いつも通りにシャワーして下さい」
「いつも通り?」
「はい。いつもしてるみたいに」
「……分かった」

顔を覆っていた手を離し、二谷に用意して貰ったICレコーダーのスイッチを押す。
すると、すりガラスの奥でシャワーしている音よりも艶めかしいものを発見してしまった。

脱衣かごの中に入れられた彼の下着。
ダークネイビーの色をしたボクサーショーツが無造作に置かれている。

普段は使用人が洗濯をしてくれるから、彼がどんな下着をつけているのかさえ知らなかった。
イメージ通り。
シックな色目でシンプルなデザイン。
クールな彼にピッタリだ。

無造作に置かれた腕時計。
それと、彼のスマホ。
私の機種と同じものだ。
思わずそれらを暫し眺めていると、突如シャワー音が途切れた。

「……士門さん?」
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