好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
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「二谷っ、手伝って!」
「どうされました?」

士門さんから電話が来ることなんて皆無に等しい。
ご実家のご両親絡みで、数回連絡を頂いたことはあるけれど、前回の電話がいつだったか。
それすらも覚えてないほど、だいぶ前のこと。

それが、たった今。
彼から突然、『どうしても同席して欲しい会食ができた』と連絡が来たのだ。

「士門さんが、三十分後に迎えに来るの」
「三十分?!」
「急に決まった会食らしくて、台湾から帰国した足で、ここに向かっているって」

彼が台湾へ行ってたことすら知らない。
そもそも、先週の水曜日から帰宅していないのだから、彼がどこで何をしているのかだなんて、知る由もない。

形だけの妻。
彼が必要とする時だけ、彼に相応しい妻になる。
ただそれだけ。

「私は何を?」
「服とアクセサリーとバッグを」
「承知しました」

二谷に用意して貰っている間に、メイクとヘアセットを施す。
ノーメイクではないけれど、さすがに華やかさに欠ける。

本当はシャワーを浴びたいところだけれど、時間が足りない。
胡桃はヘアアイロンのスイッチを入れ、メイクに取りかかる。



二谷が選んでくれた服は、淡いベージュ色のレース地のワンピース。
幾何学模様が甘すぎず華やかさを演出してくれる。
その上にダークグレーのジャケットを肩から羽織る。

髪は緩く巻いてふんわりとハーフアップにし、ワンピースに合うようにパールのピアスをつけた。

会食相手がどんな方なのか知らされていない胡桃は、華美なアクセサリーを避け、上品な装いに纏め上げた、その時。
胡桃の部屋のドアがノックされた。

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