好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

「悪かったね、急に頼んで」
「いえ、いつでも遠慮なく声をかけて下さい」

中国の広東省で開かれた国際アニメフェスに招待された士門。
士門が手掛けたゲームが一年ほど前から中国でも大ブームになっていて、熱狂的なファン層が日本よりも圧倒的に厚い。

そして、台湾で映画の配給会社社長との商談を終え、五日ぶりに帰国した。
すると、専務の時任から『ロレンツォ氏が来日している』と連絡が入ったのだ。

ロレンツィオ氏は、世界的に有名な投資家。
それも、ゲームやアニメといった日本文化が大好きな親日家。

これまでも何度も会食する仲で、ALKの主要株主でもある。


羽田空港に到着してすぐに胡桃さんに連絡を入れた。
羽田から青山まで高速を使って車で約三十分。

夕方の混雑する時間帯の少し前ということもあって、実際には二十五分ほどだったのにもかかわらず、自宅に到着した時には既に完璧に仕上がっていた。

十日ぶりに目にした彼女はエレガントな装いで、眩しいくらいに美しく綺麗だ。

普段のナチュラルなメイクでも十分なほど美人だけれど、運転に集中できないほど、凄く魅力的。

「寒くない?」
「はい、大丈夫です」

レース地のワンピースにジャケットを羽織っている彼女。
三月中旬の夕刻の外気温は、まだ少し肌寒さを覚える。

車内温度を調整しながら会食先へと向かっていると、コンビニが目に飛び込んで来た。

「あそこのコンビニにちょっと寄っていいかな?」
「へ?……あっ、はい」
「ごめんね。スマホの充電が切れそうで、モバイルバッテリーを買って来るね」
「あのっ、私もご一緒していいですか?!」
「……それは構わないけど」
「ありがとうございますっ」
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