好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

いつだったか。
帰宅した俺に『シャワーをしている時の音を録音させて下さい』と言った彼女。

普段帰宅しても軽く挨拶する程度で、下手したら無言で会釈する程度だったのに。
あの日は、心をズキューンと打ち抜かれるほどに可愛いおねだりをされた。

内容がいまいち理解できなかったけれど。
仕事で必要だと言うから、彼女の願いを叶えてあげたくて。

『妻』といっても、いつも彼女の隣りには、俺ではなく執事の二谷がいる。
だから何か困ったことがあれば、俺ではなく彼にお願いしているのだろう。

結婚して、それまで一度も彼女から何かをお願いされたことがなかったから。
『夫』という存在は、不必要だと思っていた。


眼鏡女子だということも、俺の裸に狼狽える姿も新鮮で。
もっとこういう時間が過ごせたら、少しは夫婦の関係も上手くいくんじゃないかと思えたほど。

「もしかして、コンビニ来るの、初めて?」
「……はい」
「本当に?」
「はい」

今の時代に『コンビニ』を活用しない人が、こんな身近にいただなんて。

「学校の帰りに友達と買い食いとかもしなかったの?」
「……買い食い?」

俺の言葉にポカンとした彼女。
マジでそのレベルなのかよ。
お嬢様だとは分かってたけど、『コンビニ』も『買い食い』も知らないとは。

「学校への送り迎えは二谷がしてくれましたし、友達と呼べる子がいないので」
「えっ、友達も?」
「……一人だけ、いるにはいますが」

『家から殆ど出たことがない』とは聞いていたが、予想を遥かに超えている。
本当に生粋のお嬢様なんだ。
< 39 / 148 >

この作品をシェア

pagetop