好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
「失礼しますっ!大変遅くなり、申し訳ありません!」
額に薄っすらと汗を滲ませた男性が現れた。
「淪君、仕事が忙しい所、今日は無理言ってすまないね」
「いえ、篁社長、私の采配ミスなので、弁解の余地もありません」
「まぁまぁそう言わずに。とりあえず、座って水でも」
「………失礼します」
テーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろした彼。
二谷からお見合い写真を見せて貰ったけれど、写真よりもずっとハンサムで優しそう。
写真の彼はどこか冷たそうな雰囲気を纏い、仕方なく縁談話を受けた、そんな風に感じたから。
大手出版会社の社長からの縁談話。
新進気鋭のゲームアプリ会社といっても、たぶん立場的にはうちの方が優位なはず。
だから、この縁談を断り切れずに仕方なく受けたのかなと。
冷水を口にした彼は、一息吐き、座り直した。
「初めまして、淪 士門と言います。お父上からお聞きかと思いますが、ゲームアプリ会社を立ち上げたばかりで。今日も新作のリリース日でして、それで遅れてしまいました」
「そうだったのですね。お忙しい中、ありがとうございます」
話してみると、更に優しそうな感じがする。
お見合いの席で待たせてしまったのが心苦しいのか。
申し訳なさそうに顔を歪めたりして。
「少し二人で、庭でも散策して来たらどうだね?」
「そうですね。胡桃さん、行きましょうか」
「……はい」
お見合いでよくある展開。
大丈夫。
二谷と会話の練習をして来たもの。