好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

コンビニを後にして、会食予定の場所へと向かう。
今日初めて彼が運転する車に乗ったけれど、どんな風にしていいのかすら分からない。

「俺の運転じゃ、不安?」
「いえっ、……あの、その……」
「ん?……もしかして、お手洗い?さっきのコンビニで借りればよかったな」
「いえ、そうではなくて」
「ん?……違うの?」

煮え切らない態度でそわそわしているからだと思う。
彼が気を遣って声をかけてくれた。

「この席に座るのが初めてで、どうしていいのか分からなくて」
「えっ?!……助手席も初めてなの?」
「……はい」
「そっかぁ、そうだよね。いつもは後部座席だよね」

飽きられてしまったかしら?

隣りに彼がいることですら緊張するのに、前方の視界が明瞭すぎて、ちょっと怖い。
彼の運転が不安というよりも、この位置が初めてだから、緊張してしまって。

「路側帯の広い所があったら車止めるから、後ろに座って」
「いえ、それは大丈夫です!」
「別に、どこに座っても構わないんだよ」
「……士門さんの隣りがいいです」
「……そう?」
「はい」

後ろの席に座り直していいと言われても、こんな近くにいられることなんて滅多にないのだから。
こんな機会を逃したくない。

「じゃあ、はい」
「……はい?」
「俺の手、握っとく?」
「へ?」
「と言っても、もうすぐ着くけど」

運転席から伸びて来た彼の手。
私の不安を取り除くために、彼が気遣ってくれた。

コンビニでのひとときだけでも十分すぎるくらいに幸せなのに。
今日の彼は、何だかとびきりに優しくて甘い。

そして、躊躇する私の手をそっと掴んでくれた。
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