好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜

社長くらいしか会ったことがないだろうと彼女は言う。

確かに、神クリエイターと呼ばれるような人たちは、どこか凡人とは違う価値観を持っている人が多い。
それが『神』と言われる所以なのだろう。

胡桃さんだって会ったことがないのだから、返答に困るよな。

「ガイア先生のサインを貰うのは無理ですか?」
「……お時間を頂ければ、頼んでみますが…」
「本当ですか?!」

えっ、サインはいけるの?
じゃあ、彼女を通したら、うちのアプリの話ももう少し柔軟な対応をして貰えるとか?
さすが、篁の令嬢!!
顔が利くというか、力があるというか。

けれど、無理強いはできないよな。
困惑の表情を浮かべているから、彼女でも『凱亞先生』とコンタクトを取るのは厳しいのかもしれない。

ロレンツィオは、妻のビアンカと俺が持参したゲーム(新ソフト:自社開発)を早速楽しんでいる。

「クルミさんは漫画の担当なんですか?」
「漫画というか、挿絵や表紙絵を制作する部署にいます」
「えええっ?!じゃあ、クルミさんも絵を描くのが得意なんですか?」
「……得意というほどではないですが」
「私、漫画家になりたくて!今、イラストの勉強してるんです!見て下さいっ!!」

ソフィアはバッグの中からタブレットパソコンを取り出し、イラストなどの制作スタッフ(プロ)が使うアプリを立ち上げた。

「お上手ですね」
「習い始めてまだ一年くらい。光の付け方とか服のしわが難しくて」
「分かります。習得するには沢山描くのが一番ですけど、コツをお教えしますね」
「本当ですか?」

本当にいつ聞いてもソフィアの日本語は流暢だ。
日本人九割以上の学校に通っているのだから、当然か。
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