好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜


「彼はもう休んでいるのかな?」
「……二谷ですか?」
「うん。姿が見えないから」
「今日はもう帰しましたが、何か御用が?」
「……え、ここに住んでるんじゃ?」
「はい?……まさか!ここは私と士門さんの家ですよね?」
「……だよね?」

あれ?
会話が噛み合ってないような。

「じゃあ、彼はどこに住んでるの?朝早くてもいるし、夜遅くてもいるし。俺はてっきり別の部屋にいるとばかり」
「……えぇっ?」

自宅に到着し、買って来たお菓子をパントリーにしまっていると、士門さんの言葉に驚愕してしまった。

確かに、二谷は四六時中この家にいるようなものだけれど。
さすがに新婚夫婦の家に同居だなんて。

「二谷は歩いて数分のマンションに住んでます。電話で呼び出せば、二十四時間対応してくれますが、さすが同居は…」
「そうだったんだ」

フッと鼻を鳴らす彼。
本当に知らなかったようだ。

「こんなにもたくさんのお菓子、ありがとうございました」
「どう致しまして」
「これから会社に戻られるんですか?」
「いや、書斎で仕事するけど」
「……そうですか」

ロレンツィオさんにお酒を勧められても、『車で来ているし、まだ仕事があるから』とお酒を断っていた。

二十一時過ぎ。
別宅にあの人がいて、そこに帰るのとばかり思っていた。
海外出張から帰国し、彼女に会うとばかり……。

けれど同じ家にいても、『書斎』への立ち入りは厳禁だから、結局は同じことなのだけれど。

「では、お仕事のお邪魔になってしまうので、私は部屋に」

自室へと踵を返した、その時。

「胡桃さんっ」

突然、勢いよくがしっと手首が掴まれた。

「ごめん、あと一分だけ」
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