好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

うっっっわぁ。
とうとうやらかしてしまった。

胡桃さんがあまりに可愛くて。
いつものよそよそしさがないから、つい暴走してしまった。

くりくりっとした瞳から、玻璃のように光る涙が次々と溢れ出す。

執事の二谷が同じ家に住んでいないと知って。
今この家にいるのは、俺ら二人だけだということに浮かれて。

気付けば、彼女の唇を奪っていた。


彼女が俺のことをどう思っているのか。
冷静に考えたら分かりそうなものなのに。


ロレンツィオファミリーとの会食が思ってた以上に楽しかったのもある。
いつもより彼の機嫌がよかったことも、娘のソフィアちゃんとの交流を通して、胡桃さんの日常を知れたことも嬉しくて。

まさか、泣きたいほど俺とのキスが嫌だっただなんて、思いもしなくて。

どうしたら泣き止ませることができるんだ?
謝ったくらいじゃ許して貰えない?

「もうこういう事はしないから…」
「……っ……ぅっ」

嗚咽に似た声を滲ませながら、一瞬キッと睨みつけられて。
突き飛ばすわけでもなく、なじり飛ばすでもなく。
彼女は自室へと駆けて行ってしまった。

何だよ。
言いたいことがあるなら、言い返せばいいのに。
ビンタされても仕方ないと覚悟したのに。

今日はぐんと近づけたと思ったのは俺だけだったのかもしれない。

お嬢様の距離感、マジで掴めねぇ。
自分からおねだりして来たり、あんなに嬉しそうに笑ったりしたのに。

手を繋ぐくらいはよくても、キスは無理って。
俺ら、夫婦なのに。

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