好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜


「お帰りなさいませ。お夕食のご用意は出来ております」
「……ありがとうございます」

帰宅すると、二谷がキッチンから声をかけて来た。

キス事件から早二週間。
完全に避けられている。

前は早めに帰宅すると、リビングやダイニングで二谷と楽しそうに話す彼女を見かけたが、あのキス事件後は、ぱったりと顔を合わせることがなくなった。

元々夜型の生活なのか。
比較的に朝はゆっくりとしているタイプらしくて、朝に顔を合わせることは殆どなかった。

なのに、こうして夜もすれ違う生活をしていたら、完全に嫌われたと自覚せざるを得ない。
今さら謝ったところで許して貰えるとは思わないが、せめて言い訳くらいさせて欲しい。

違うか。
そもそも俺にはそんな権利、存在してないのかもしれない。

若くて、才色兼備の彼女と結婚できただけでも、宝くじで一等を引き当てたくらい奇跡的なことだ。

なのに、彼女と絵に描いたような夫婦像を期待したのが間違いだったんだ。

令嬢の夫として俺に求められているのは、『成功した青年実業家』という肩書だけ。
彼女の人生に汚点を残さないために選ばれた、ただそれだけだろう。

お金には不自由していないし、そばには二谷がいる。
俺なんかよりずっと彼女のことを理解していて、公私ともに彼女の支えになれる男が四六時中そばにいるのだから。
俺の出る幕なんて、あるわけないか。

「士門様?」
「食事は部屋で頂きます。すみませんが、書斎に運んで貰えますか?」
「承知しました」
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