好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
**
「お目覚めですか?」
「二谷、珈琲をちょーだい」
九時過ぎに起きて来た胡桃は、凝り固まる首回りを解しながらリビングソファに腰を下ろす。
四月一日付で『凱亞』の公式ファンサイトが開設され、人気作品の関連グッズが会員限定で発売された。
しかも、ファン待望の描き下ろしのものが沢山あって、海外からのアクセス数もかなりのものらしい。
二カ月先の描き下ろし作品を現在手掛けている胡桃は、ここ数日缶詰め状態で作業に追われている。
コトッと珈琲カップが目の前に置かれた。
焙煎したての香ばしさに、脳内がすっきりと整理されてゆく。
「お嬢様、士門様の会社からイラストの依頼が来ておりますが…」
「これで何度目?」
「……十三回目です」
「十三回……。普通なら諦めて、他の絵師に頼むわよね」
「そうですね。ですが、だからこそなのだと思います。『凱亞』というクリエイターは二次元の人物だという噂もありますし、ゴーストライターだという噂も。直接会うことの希少化という点を踏まえても、時間をかけてでも口説き落としたい絵師ということなのでしょう」
「でも、私が幾ら依頼を受けたいと言っても、お父様がダメだと言えばそれまでよ」
「……そうですね」
少女コミックだけの時ならたぶん許可が下りただろう。
だけど一年半ほど前から、TL漫画(二十代、三十代の女性をターゲットにした性表現のある漫画)も描くようになってからは、編集部との直接やり取りを禁止されたくらいだ。
それまでも社屋への出入りは禁止されていたし、篁の娘だということも伏せていた。
けれど、編集部との直接メールでのやり取りは胡桃がしていたのだけれど、それも御法度になったのだ。
「お目覚めですか?」
「二谷、珈琲をちょーだい」
九時過ぎに起きて来た胡桃は、凝り固まる首回りを解しながらリビングソファに腰を下ろす。
四月一日付で『凱亞』の公式ファンサイトが開設され、人気作品の関連グッズが会員限定で発売された。
しかも、ファン待望の描き下ろしのものが沢山あって、海外からのアクセス数もかなりのものらしい。
二カ月先の描き下ろし作品を現在手掛けている胡桃は、ここ数日缶詰め状態で作業に追われている。
コトッと珈琲カップが目の前に置かれた。
焙煎したての香ばしさに、脳内がすっきりと整理されてゆく。
「お嬢様、士門様の会社からイラストの依頼が来ておりますが…」
「これで何度目?」
「……十三回目です」
「十三回……。普通なら諦めて、他の絵師に頼むわよね」
「そうですね。ですが、だからこそなのだと思います。『凱亞』というクリエイターは二次元の人物だという噂もありますし、ゴーストライターだという噂も。直接会うことの希少化という点を踏まえても、時間をかけてでも口説き落としたい絵師ということなのでしょう」
「でも、私が幾ら依頼を受けたいと言っても、お父様がダメだと言えばそれまでよ」
「……そうですね」
少女コミックだけの時ならたぶん許可が下りただろう。
だけど一年半ほど前から、TL漫画(二十代、三十代の女性をターゲットにした性表現のある漫画)も描くようになってからは、編集部との直接やり取りを禁止されたくらいだ。
それまでも社屋への出入りは禁止されていたし、篁の娘だということも伏せていた。
けれど、編集部との直接メールでのやり取りは胡桃がしていたのだけれど、それも御法度になったのだ。