好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
『凱亞』が男性なのか、女性なのか。
年齢は何歳なのか。
どこに住んでいるのか。
どういう人物なのか。
全てが伏せられていて、『神絵師』と崇められる一方で、巷での悪い噂も絶えない。
それらも宣伝の一部だと考えているのか。
父親の企みは底が見えない状態だ。
「イラストの依頼って、どんなゲームなの?」
「詳しくは対面での商談を希望されているので、こちらも詳しく伺っていないのですが、スマホアプリのシュミレーションゲームの一種で、韓国の王宮を舞台にしたものらしいです」
「和風テイストじゃないのね」
「そのようですね」
海外向けのゲームアプリなら断然に和風のキャラクターが人気だ。
着物のキャラならたくさん描いて来たけれど、韓服は試しに数回しか描いたことがない。
二谷が用意してくれた資料をもとに、何ポーズか描いたのが最後で、その話はいつの間にかなくなったから、企画自体が流れたのだろう。
「韓服の資料って、まだあったかしら?」
「確か、本棚にあったと思いますが。……描いてみたくなったのですね?」
「……そうね」
「では、韓国の王宮をモチーフにしたゲームの市場調査をしておきます」
「助かるわ」
珈琲カップを手にして、ダイニングへと移動する。
早めに朝食を済ませて、仕事をするためだ。
胡桃好みの目玉焼きが焼かれていて、テンションが上がる。
「お味は如何ですか?」
「いつ食べても美味しいわ。火加減もちょうどいいし」
「左様にございますか」
片面を蒸し焼きにする『ベースドエッグ』。
半熟の黄身が白い膜で覆われていて、それをフォークで崩すのが好きなのだ。