好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜


「お嬢様、楽しいですか?」
「……えぇ。目新しいことはマンネリ化した意識をリセットしてくれるし、チマチョゴリを着た女の子を描くの、結構楽しいわ」

仕事の合間にラフ画を描く胡桃。
二谷が探してくれた韓服のカタログ雑誌片手に、何ポーズか描いている。

「二谷はどう思う?」
「どう……とは?」
「私が『凱亞』だと、士門さんに隠さなくてはいけないことを」
「……個人的な意見を申し上げますと、バレても支障はないかと存じます。士門様もご自身の仕事上で機密事項はおありでしょうから、事情をきちんと説明すれば、例え妻が売れっ子絵師だとしても、さほど問題ではないように思いますが」
「では、お父様はどうして隠すように言うのかしら?私がR指定の作画を描いてるから?」
「それもあるかもしれませんが、どこから漏れるか分からないため、最大限の策を講じているのかと存じます」
「それほどまでに、篁が大事なのね」
「……出版業界は衰退傾向に歯止めが利きません。ゲームやアプリなどの普及が著しいのもありますが、活字離れは死活問題です。その中でも電子コミックはイラストが主体なので、これからの時代に取り入れておくべきジャンルと言えます」
「お父様は乾いた雑巾を絞るように、私を働かせるつもりなのね」
「お世継ぎを授かり、子育てするようになれば、少しは旦那様も変わるのでは……?」

お世継ぎ……って。

法的な夫婦であっても形だけで。
子供を設けるかどうかの話ですらあがったことがないのに。

そもそも家に寄り付かないような人と挨拶を交わすのだって難しいのに。
どうやって子供を授かれというの?
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