好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

「じゃあ、この件は士門に任せていいんだな?」
「ん」

土曜日の夜に開かれる取引先のレセプションに出席予定だった春親から招待状を受け取る。

明日から上海へと出張予定の士門。
帰国するのが土曜日の昼過ぎというのもあって、レセプションは春親に任せるつもりだった。
けれどキス事件の後、完全に避けられているこの現状をどうにかしたい士門は、『同伴』を理由に、胡桃へのアクションを起こすことにしたのだ。

「花に菓子、アロマオイルに厳選紅茶。他に贈る物、何かないか?」

社長室のソファに腰掛け、優雅に珈琲を口にする春親。
この手の話は、この男に相談するのが一番だ。

「アクセサリーやバッグが無難だけど、お前の奥さん、令嬢だからな。新作だとか、欲しいものがあれば自分で買うだろうし、酒はまだ飲めないからワインもダメだし、結構難しいな」

胡桃さんの気を惹きたくて、何度も春親に見繕って貰っていた。
恋愛経験がないのに、恋人をすっ飛ばして結婚してしまった士門は、経験値不足が否めない。

ロールプレイングゲーム(RPG)だろうが、シュミレーションゲーム(SLG)だろうが、萌えゲーム(成人向け)だろうが、負け知らずの士門だが、リアルな世界は二次元のスキルでは全く通用しない。

「そもそも好物だとか欲しいものとか、お前調べる気がないだろ」
「……調べるっていっても、常に完璧な執事が傍にいて、俺の出る幕なんてあるわけないだろ」
「あーはいはい、聞き飽きたから、それ」
「……」
「いいか?苦労もせずに得た幸せなんて、砂の城と一緒だぞ。遠くから見てる時はいいが、一瞬で崩れる脆いものだ」
「分かってるよ」
「分かってんなら、駆け引きせずに真正面からぶち当たってけよ」
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