好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜


正式な夫なのだから、自宅に帰るのは当たり前だし、手土産なんて必要ないのかもしれない。
けれど、あの夜以降完全に避けられていて、どうにもこうにも気まずい。

『夫婦同伴』というルールがあっても、話題を振るきっかけが欲しくて、フルーツ大福を手土産にした。

二十時過ぎに帰宅すると、既にリビングとダイニングの灯りは落とされていた。
夕食を済ませ、書斎で仕事をしているのだろう。

彼女の部屋の前に立ち、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

『手土産を口実にして、レセプションのことを切り出し、謝れるようならきちんと謝る』
脳内で何度かシュミレーションし、意を決してドアをノックしようとした、その時。

「もういいですか?」
「ダメっ……もうちょっとでいけそうな気がする」

えっ、何してんの?
ドア越しに漏れてくる会話に、心臓がドンッと強打された気がした。

「二谷、これ邪魔」
「脱げばいいんですね?」
「うん、……早くっ」

は?
脱ぐって、何を?

ドアノブに手を掛けようか何度も躊躇する。
ノックもせずにいきなりドアを開けるのも……。

どのタイミングでノックしていいものか。
要らぬ気を遣ってしまう。

「ん~ッ、ダメっ、角度が」
「え、…これくらい?」
「……ん~っ、もっと」
「もっと?」
「もう少し深く」

あ゛ぁぁぁ~~っ!!
あらぬ方向に意識が全部持ってかれる。

何だよ。
俺がいないからって、自宅ですんなよなっ。
やりたいなら、どっか他に行ってやって来いよっ。
俺の知らない、見えないとこで。

ぎゅっと握り拳を作った、その時。

「触ってもいい?どのくらいの硬さなのか、知りたいの」
「いいですよ。……どうぞ、ご自由に」

ドアを三回ノックするのと同時に、書斎のドアを勢いよく開けていた。
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