好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
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アトリエのドアがノックされた音がしたと思った次の瞬間には、ドアが勢いよく開き、スーツ姿の士門さんが立っていた。

「二人で何をしてるんですか?」
「……何って、イラストの修正をするために、二谷にポージングをして貰っていただけですが……」
「………え?」

TLコミックの作画に使用する床ドンシーン。

実際は床にヒロインがい横たわっている設定で、二谷にヒーロー役をやって貰っていた。
ヒロイン視点でもヒーロー視点でもなく、二点透視(パース)(辺りを見回したような自然な絵)を修正していたのだ。

床に肘をついた状態でヒロインを追い込んだ設定で、肘の曲がる角度や腕の筋肉の形状を俯瞰して見た時の図。
上腕と前腕の筋肉の動きを細かくチェックしたかったのだ。

上半身裸の二谷に腕立てのようなプランク(体感トレーニングの一種)のような状態をキープさせ、それを近くで観察してラフ画を描いていた胡桃。

制作スタッフとして絵を描いていることは知られていても、実際にどんな風にして制作しているのかは企業秘密でもある。
それを士門に知られてしまったのだ。

クロッキー帳片手に、床に胡坐を掻いていた胡桃は、慌てて立ち上がった。

仕事モードで、前髪は無造作にピンで留めてあるだけだし、コンタクトではなく眼鏡をかけている。
しかも、一番見られたくなかったのは、ラフすぎるスウェット着だということだ。

「あっ、ごめん、仕事中に返事も聞かずにドアを開けて。これお土産なんだけど…」
「……ありがとうございます」

士門から視線を逸らしながら手土産を受取り、慌ててヘアピンを外して手櫛で前髪を直す。

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