好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
「おでこが出てて、可愛いかったのに」
「へ?」
「いや、何でもない。あ、そうだ。土曜日の夜に、取引先のレセプションがあるんだけど、一緒に参加して貰えるかな?」
「……はい、大丈夫です。準備しておきますね」
「助かるよ」
二週間ほど前のキス以来、まともに顔すら合わせていなかったのに。
いつもながらにクールすぎる彼の態度に、ほんの少し胸がチクっと痛んだ。
彼にとったらキスくらいなんてことないのだろう。
素面でも平然とできてしまうほど手慣れていて、好きでもない女性にだって普通にできてしまう。
実際はキスとは言いがたいのかもしれない。
軽く唇が触れた程度。
挨拶代わりにチュッとしただけかもしれない。
私にとっては、凄く特別なことだったけれど。
「士門様、お夕食はお済ですか?」
「外で食べて来たので済んでます」
「何か、お飲み物でもお持ち致しましょうか?」
「……じゃあ、ビールと軽いつまみをお願いしてもいいですか?」
「承知しました。お嬢様は何になさいますか?」
「この中身は何ですか?」
「フルーツ大福です。こんな時間に食べるようなものではなかったですね、すみません」
「いえ、嬉しいです!二谷、緑茶をお願い」
「承知しました。直ぐにご用意致します」
サッとシャツを羽織った二谷は、会釈しキッチンへと向かって行った。
「仕事の邪魔をして悪かったね」
「いえ、助かりました。ちょうど煮詰まっていたところなので」
「……そうなの?」
「はい」
頭のてっぺんから足先へと視線を向ける彼の視線から逃れるように、顔を背けた。
「一つ聞いてもいいかな?」
「はい?何でも遠慮なくどうぞ」
「さっき二谷がしてたことみたいなの、俺でもできるよね?」
「……へ?」
「俺が絵のモデルをしたいって言ったら、起用してくれる?」
「……えっ、いいんですかっ?!!」
「もちろん、俺ら夫婦なんだから、遠慮なく声かけてよ」