好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
青海波模様の白洲石を堪能するための野点椅子が置かれていて、その前で振り返った彼。
「私と、結婚だけ、して貰えませんか?」
それまでの優しそうな雰囲気とはまるで違う。
真っすぐと射抜かれるように向けられた視線は、正式なプロポーズなのに、胸を熱く焦がすような感じではない。
お見合い結婚。
言うなれば、政略結婚とも取れる。
我の強い父親が、彼に圧力をかけて口説き落としたに違いない。
この縁談を断れば、取引を無かったことにするとでも脅したのだろうか。
父ならやりかねない。
剛腕なやり方で出版業界のトップを維持し続けるには、それなりの手腕があるのだろう。
実の娘でさえ、こうして駒として使うくらいなのだから。
『私と、結婚だけ、して貰えませんか?』
この結婚に愛は求めるな……そう言われてる気がした。
結婚に憧れや興味があるわけでもなく、家族の愛ですら、よく分からないのに。
結婚した先のことなんて、分かるわけない。
だから、『法的な妻』の座にいてくれればいい。
そういうことなら、お安い御用よ。
「本当に私で宜しいのですか?淪さんみたいに素敵な方なら、引く手あまたでしょうに」
「そんなことないですよ。……仕事一筋というか、ゲーム一筋というか。恋愛ゲームも沢山手掛けてますけど、現実とゲームは別物ですし」
「そうなんですか?」
「お父上から、胡桃さんは独特の世界観をお持ちだと伺ってまして、自分と似た価値観だから、お互いにいい刺激になると聞いてたのですが」
「……独特の世界観、ですか」