好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
(士門視点)

出張用の荷造りを手伝うと言い出した彼女は、手際よくパッキングしてくれる。
お嬢様だから、こういうことをしたことがないと勝手に思い込んでいてけれど、違ったようだ。

「あのっ」
「胡桃さん」
「……士門さん、お先にどうぞ」
「胡桃さんからどうぞ」

どちからともなく声掛けが被ってしまった。

ビジネスバッグ以外の荷物を詰め終えた、その時。
絶妙なタイミングで部屋のドアがノックされた。

「どうぞ」

二谷が酒とつまみとお茶を用意し終えたのだろう。
ゆっくりと寝室のドアが開いた。

「ここにいらっしゃったんですね。お飲み物のご用意が整いました」
「ここに運んで貰ってもいいかな」
「はい、承知しました。お嬢様の分もこちらで宜しいでしょうか?」
「……えぇ、お願い」

二谷は軽く微笑んで、踵を返した。

「出張前にお酒を飲んで大丈夫なのですか?」
「午後の便だから」
「それならいいのですが」

再びドアをノックした二谷。
寝室一角にあるソファコーナーに飲み物やつまみ、俺が買って来たフルーツ大福などが置かれた。

「二谷、今日はもう上がっていいわ」
「はい、承知しました。では、失礼致します」
「お疲れさま」

深々と一礼した彼は、彼女に目配せし、部屋を後にした。

「帰してよかったの?俺のことは気にせず、仕事してよかったのに」
「いえ。先ほども言いましたけど、煮詰まっていたので、こういう時はゆっくり過ごす方がいいんです。それに…」
「……ん?」
「士門さんとちゃんと向き合って、話がしたかったので」
「……」

それは俺も同じだ。
あのキス以来、ずっと気まずいままで。
出張がちだからというのは理由にはならない。

きちんと謝っておかなければ、土曜日のレセプションの時に、さらに嫌われてしまいそうで。
< 62 / 148 >

この作品をシェア

pagetop