好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
「私、士門さんに秘密にしてることがあるんです」
「……秘密?」
突然の言葉に動揺してしまう。
大企業の令嬢だから、人には言えない秘密くらい抱えていても不思議じゃない。
実は父親とは血が繋がってないだとか、好きな人がいる……だとか。
一瞬の間に、脳内をあらゆる情報が錯綜する。
「士門さんの会社、韓国の王宮を舞台にしたゲームアプリを企画中ですよね」
「……えっ、何でそれを知ってるの?」
「そのゲームアプリのイラストを、……七夕社と専属契約している絵師に依頼してますよね」
「……そっか。胡桃さんも制作チームの一人だもんね。凱亞先生への件は知ってて当然か」
一年半ほど前からもう何度も依頼しているが、アポイントすら取れたことがない。
まぁ、他社も同じように門前払いだから、個人的には納得できているのだが。
『篁の婿』という立場を考えたら、もう少し手応えがあってもよさそうなものだ。
それほどまでに『凱亞』という人物が癖のある人なのか。
それとも、七夕社が制限をかけているのか。
「ちょっと見て貰いたいものがあるのですが…」
「ん?」
キャリーケースのファスナーを閉めた彼女は立ちあがって、初めて俺の手を掴んだ。
促されるままに歩かされる。
一体どこへ連れて行く気なんだ?
連れて行かれたのは彼女の書斎。
それも、近寄ることもできなかった彼女の仕事用デスクへと。
「ちょっと見てて下さいね」
「……ん」
いつもはパソコンの画面が見れない位置にしか足を踏み入れることができなかったのに。
今俺は、彼女の仕事用パソコンを覗く形で立たされている。
すると、ロレンツィオ氏の娘のソフィアちゃんが見せてくれたような、イラスト専用のソフトを立ち上げた彼女。
躊躇することなく新規画面を立ち上げ、器用に描き始めた。